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2020年01月11日

カテゴリー:院長より

見果てぬ夢の地平を透視するものへ-173


 私達が家庭訪問をしようとしていたN・Hさんは、昭35年に精神衛生法による措置入院から仮退院中に病状が再発し、措置による再入院となって以来、その措置入院の主旨のとおり外出も外泊も許されず、最近では月二回ほどの看護婦付添の買物と、月一回程度のグループでの院外食(ラーメンを食べに行く)等以外は病院の外へ出ることはなかった。

 何故、このように長期間にわたる措置入院(精神衛生法による強制入院)が実際に存在するのか、という素朴な疑問に簡単に答えることは難しい。だが、私達がまず確認しなければならないことは、このように明らかな不当な長期間の入院を強制させてきたもろもろの要因こそ、過去から現在に至る精神医療が果してきた患者処遇の内実であったということである。

 措置解除を困難にしている最大の要因は、いうところの経済的問題(家族の入院費負担の増加、あるいは福祉による生活保護の枠がないことなど)であるわけだが、この点を百歩ゆずって認めたとしても、それさえも現在までの精神医療の内実が、家族、社会と患者をめぐる状況に関してほとんど何も手を出さなかったことの当然の結末なのである。

(Ⅳ私的表現考/世界の病むこと つづく…)

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